サックスの独り言


今から10数年前、音楽制作の仕事を始めて、アニメや映画、番組用など様々な制作に忙しい時期があった。「音楽紀行シリーズ」などのためにレコーディングでソプラノサックスは吹いてはいたが、アルトサックスは用無しであまり吹いていなかった頃、ライブもほとんどやっていなかったので、アルトサックスはホコリがたかっているような状態であった。
そんなある時「僕をもっと吹いた方がいいよ・・」サックスから、一言だけ小さな声が聞こえたような気がした。「えっ!・・あ・・そうだったよね・・・ゴメン」
僕は割合素直にそう思い、寂しそうにポツンとサックススタンドに載っているアルトサックスを思わずじっと見つめた。
そのサックスは、僕が二十歳の頃にお給料を貯めて買ったフランス/セルマー社製。アマチュア時代は吹きまくっていたのに、特に音楽制作に力を入れ始めてからは、サックスを吹くことをほとんど忘れてしまっていた。
本当に言われたような気がして、いや本当に言ったんだ!との確信に切り替え「そうだよ、忘れてたよ。大反省!これからはもっと吹きます!練習もします!」と約束した。
それからは毎日、例え短い時間であっても必ず手に取って感触を確かめ、そして吹く。
やがて、ライブ活動も再開、東京都のヘブンアーティスト資格を取って公共の場で演奏する機会も増え、アルトサックスによる「トマバラード」シリーズの制作も始めて、多くの皆さんに“僕自身”の音楽を楽しんで頂くことが出来るようになった。
そして・・ビジネスとしての音楽制作の仕事はいつの間にか全て消え失せ、僕だけの音楽世界となって今日に至る。
そのサックスはもうかなり古びてはいるが、僕の大切な相棒。
・・と言いつつ、楽器に気を遣わない性格は相変わらず。いつからオーバーホールや調整をやってないんだろう?・・と思いつつ、毎日触れていたくて、楽器工房に預けるのをためらっている。
サックス君、ありがとう。これからもよろしく!

10月17日(日)石塚まみプロデュース「TOMAのリラックスライブVol.29」〜秋のスペシャル版!〜

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